どんぐり探訪記

ゆみコラム

ならのこプロジェクトをスタートした時から、私たちの想いに共感いただき、また、幼児教育の立場から貴重なアドバイスをいただいている良きパートナー、国際こども学フォーラム事務局代表の立野由美子さん(国際モンテッソーリ教育治療師)のコラムです。

はじめて聞いた『座力』ということば

2004.03

『座力』について

「いろいろな力があるもので、『座力』というものがあるのを知った。
学者や芸術家はたいへんな体力を必要とする。重い本や道具を移動させることのほか、何と言っても長時間椅子に座っている能力が欠かせない。それを『座力』という。

国語辞典には載っていない。日本にはなかったことばなのだろう。
古くからのヘブライ語で、かの地では、幼いころから聖書の勉強で「座力」が鍛えられるという。

詩人の長田弘さんの近著に「読書のための椅子」という章がある(「読書からはじまる」NHK出版)読書の達人が「読書のためにいちばん必要なのが何かと言えば、それは椅子です」と論じている。「いい椅子を自分の日常に置くことができれば何かが違ってきます」と。(後略)

=朝日新聞・天声人語 [2002.1.1]より引用=

はじめて聞いた『座力』ということば

自分自身の遠い記憶のなかにある「座る」については、日本家屋のライフスタイルから言うと、お座布団におっちん(正座)することでした。
そのためか、椅子を生活道具(環境家具)として、意識することがあまりなかったため、姿勢をただすことや、身体の軸を立てることなど、身体発達のプロセスと脳の力のつながりから「座る」ことを考えてみるという発想のおもしろさに思わず引き込まれて読んでしまいました。

「座る」ために欠かせない「力」を、身につけていく…と言う発想の意外さから、改めて「椅子」そのものの存在が気になってきたのです。

人は楽に「座る」ことができるようになれば、身体を椅子に預けるだけで、両手も自由に使えるようになります。
そこには、直接、肌に触れて伝わる安心感や、目には見えないものに寄せる信頼関係の形成にまでつながる不思議な力の行き来を感じるのです。

やさしさや安心感、信頼……ことばでは補いきれないような感覚を、どこかで感知しているからでしょうか、これらがつながっていったとき、人は思いもよらない生命の「力」を発揮します。

こうした感覚のひとつ・ひとつは、遠く、わたしたちの生命が宿った瞬間から、求めている感覚かもしれません。

肌触りや、温もりや、安定感…、など、身体の声に耳を傾けてみると、感覚が研ぎすまされていくなかから生まれる、しなやかな秩序感のある身体の営みの声が聞こえてきます。

「座る」ことの力が整っていくその道すがら、人はどのような自分と出会っていくのでしょうか…?!

「座力」ということばとの出会いから、 わたしの「ならのこ物語」がはじまります。 (つづく…)

第一楽章 赤ちゃんこんにちは…♪

2004.06

第一楽章 赤ちゃんこんにちは…♪
ー つまむ・ひっぱる・持ちあげる ー

赤ちゃんは、この世に生を受けたその瞬間(とき)から、外界との交信を持つために、身体中のセンサーをフル稼働させています。

まぶしい光のあとを追いかけて、まだ、はっきりと見えていない眼も、懸命に動くものをとらえようとしています。

歩くことはまだまだず~っと遠いさきのことなのに、仰向けに寝かされたまま空(くう)を蹴り挙げる足は、一定のリズムをとりながら動いています。
夢中になって空(くう)を蹴るその姿を見ていると、2足歩行で道を歩いてる自分の姿と、よく似ているのが不思議です。

おかあさんのおっぱいが口元に近づいたとき、まだ何も掴むことのできない手が、おっぱいをきゅ~~っと押したりつまんだりします。
おかあさんの胸に抱かれて、おっぱいをほおばったあかちゃんは、おかあさんと何をお話ししてるのでしょう…??
しばらく、あそんだそのあとは…、今日もゆっくり、眠ります。
そしてまた、目覚めれば、思いっきり身体をまっすぐに伸ばして深呼吸。
背伸びをするたびに、赤ちゃんが大きくなるって知ってました…??

こんなにたくさんの身体の不思議を、赤ちゃんは、いつどこで誰から教わったのでしょう…?
ちょっと聞いてみたくなりますね…?!

時を刻む正確な時計のように、今日もまた、何度も、何度も、同じことをくり返しながら、
身体のセンサーをフル稼働させています。 確実に刻まれていく静と動の身体のリズムは、
いつか自分の身体を自分一人で持ち上げて、どこにでも自由に動きまわれるその日が来るのを待っているようです。

つまんだり、ひっぱったり、持ち上げたりしながら…。
すぐにひとりで上手におっちんできるようになるんだもんねえ~~
そんなことを、想像してみるだけで、何だかとってもワクワクします。

赤ちゃんこんにちは…♪ いつまでも、見つめていたくなる私です。
つづく…♪

第二楽章 よいっしょどっこいしょ…♪

2004.10

第二楽章
よいっしょ、どっこいしょ……… 立っちしたあ~~♪

「わ~~い、寝返りできた…!!!」
おかあさんや、おとうさんを喜ばせてくれたのもつかの間、 ごそごそと動きはじめたあかちゃんは、
あっという間に、二本足でしっかりと立っています。

ちょっと危なっかしいけれど……。
家中の手に届くところを見つけると、しっかりつかんで仁王立ち。

まだまだ重心がどこにあるのかがしっかりと決まらない、その立ち姿はまるで、二本足で立ってるカエルさんのようです。

後ろ姿は…というと、そう、不二家のペコちゃんかな??
仁王立ちをするたびに、重たい頭がぐらぐらと揺れて、やっとこさ身体のバランスを保っています。

ぐらぐらって揺れる度に、姿勢が元に戻るのがとっても愉快です。

同じ姿勢を長い時間保とうとしても、なかなかうまくはいきません。
ひざに力を入れて、かろうじて立っているので、油断するとたちまちドスンと尻もちです。

それでも、また動きはじめて、赤ちゃんの勢いはとまりません。
1日中、何回でも、「よいっしょ、どっこいしょ」と、仁王立ちをくりかえします。

もちろん、『上手っ!!』なんて声がかかれば、声援に応えて何度でも、仁王立ちの晴れ姿を見せてくれます。

何度も尻もちをつきながら、しっかりとした安定感のある一歩を踏み出すための準備をはじめています。

よいっしょ、どっこいしょ……ドスン。

つかまり立ちをすれば、もたれた方に身体が引っ張られてしまうので、
ゆらゆら揺れる身体のリズムをしっかりと記憶しながら、「並行感覚」に磨きをかけているのでしょう。

さあ、今日も「立っちするぞ~~♪」

よいっしょ、どっこいしょ……よいっしょ、どっこいしょ…… きっと、もうすぐ歩けるね。

お手ても『ヨイッショ』が上手です…♪

2005.04

ぐらぐら揺れる不二家のペコちゃんも、尻もちドスンだった仁王さんも、あっという間にタッチ、タッチができるようになりました。

足もとを見ようと頭をほんのちょっと下げた途端に、そのままドスン…?! 
だったあかちゃんも、ほ~ら、上手にタッチしながら、手を使っています。

どっこいしょって、立ちあがったその途端に…、お見事…!
両手が身体の前にす~~っと出てきて、つかまり立ちをしています。

ぎゅっと、つかんだ指先にまで体重が思いっきりかかっています。
でも、ちゃ~~んと、不思議なくらいしっかりと身体を支えています。

そうなんです、生まれたばかりのころは、指を全部ギュっと固くぐうの形に握ったままで、身体の横側にだらっとぶら下がったままだったのに、いつの間にか、好きな方向に向かって動かせるようになったのです。

身体を支えたり、物に触ったりと、自由自在に『手』が動きます。

するとどうでしょう、ドタン、バタン…と、家中を散策するのに大忙し子どもの側で、おかあさんは大慌てです…?!

立ち上がるのがやっとだったあかちゃんも、少しずつ長い時間 同じ姿勢で身体が支えられるようになり、いつまでも平気な顔で立ってます。
そのうえ、両手も上手に動かせるようになるのですから…。
さあ、ここからいよいよ、待望の最初の第一歩がはじまります。

もうすぐ、つま先立ちで背伸びをしているちびちゃんが、お部屋のなかを小走りに走りはじめるようになりますから、みなさん、楽しみに待っててくださいね…♪

「ならのこ」チェアは、重量感のある自然木が素材ですから、動きがまだ不安定な子どもが、全体重をかけて寄りかかってもびくともしないで、しっかりとその動きを受け止めてくれます。

この写真の男の子は、1歳2ヶ月。 上手に立ち上がれても、動きはまだ不安。
なんとかやっと、つかまり立ちができるようになったところです。

するとどうでしょう、突然、何を思ったのか、「ならのこ」を自分の身長の高さに合わせるかのようにチェアを横に寝かせて、いすの脚の部分に全体重をかけて立っています。

「ならのこ」は、今日も、子どもの立ち上がりの瞬間をしっかりと支えながら、子どもにそっと寄り添っています。

いつまでも飽きることなく、何回も、何回もいすと大格闘の少年で・し・た…?!

『一人でおっちんできちゃった…♪』

2005.07

よっこいっしょ…と。

ママのまねっこして、やっとこさ、おイスの上にのぼることができても、ぐらぐらと揺れる不安定な身体をまだまだ一人では支えられずに、のぼったおイスの上からちょっとでも身体の向きを変えようとしただけでも、いまにも落っこちそうになってます。

いろいろ身体の向きを変えてはみるのですが、下を覗き込もうとすれば、あっという間にドスン…と、墜落です。

残念ながら、手を離せば、ぐらりっ…!
足を伸ばせばぐらぐらっと、座りたくても座れない…を、何度やってもまったく身動きが取れず、
姿勢を整えることができないため、おイスの上で自分の手足と格闘しながら、結局、最後はいつも、
「ママ助けて~!!」って大泣きでした。

不安定な姿勢のため、イスから落ちるのは時間の問題…、
悲壮な表情をしながらも身動きがとれず、何回のぼっても失敗ばかり。

あの頃は、おイスの上によじのぼっただけでも拍手喝采…♪
うまく行かないとすぐにご機嫌斜めで、自分で自分の身体がうまく使えない事態に…ギャ~~ギャ~~と??
大騒ぎしては周りを困らせてました。

「どうしたいの?? 」って、心配そうに声かけしてくれるママの応援のおかげで、なかなか成功しないものの、
何度も何度もめげずに挑戦しながら、身体も、子ども自身も育っていくのでしょう…。
がんばってね!!

ところがところが、ほ~~ら、すごいでしょ???
こんなに上手におっちんができるようになりました。(ぼくも2歳になりました…!!)

安定した座位がとれるようになると、座っている姿勢そのものに大きな変化が見られます。

まず、とっても不思議なのは、 「手と足」がそれぞれに上手にクロスして、自分の身体の中心位置を作っています。
無意識に身体の揺れを受け止めています。これは、手と足が、バラバラになって外側に開いたままになっていると、
いつまでも、身体の揺れが止まらないことを、知っているからでしょうか…??

不思議ですね。
手もお膝の上で、止まっていますし、足は両足の足首のところが上手にクロスして、身体を支える力が少し加わって、
揺れが大きくならないように支えています。

この足に注目です!!
イスを斜め向きにした途端、足はイスの脚に上手に引っ掛けて、またまたクロスしています。

ここまでくれば、身体がどんなに揺れても、少々のことではこけません。

知っているのか、いないのか、落ちないように工夫している手と足の使い方は実に絶妙です。
あっ、お口の中に突っ込まれた手は…、すいません、おまけです…??

ほ~~ら、笑顔もすてきでしょ…?!
やっぱり、足はしっかりと身体を支えるためにペケポンになってます。

もう、こけないなからね…って僕もいろいろ学習しました。うふっ、ひとりでおっちんできたんだもんね…♪
ね、すごいでしょ…。

『おっちん上手はお仕事上手…?!』

2005.10

やっとこ、おイスに座れるようになった…と思ったら、
またまたすごいこと…が、はじまりました。

おイスの周りをぐるぐると行ったり来たりしながら、気がつけば、『ならのこ』が、お仕事のテーブルに早変わりです。 これまで座るためだけの場所だった『ならのこ』が、今度は子どもたちの身体の動きを助けるために寄り添っています。

あれ~~、誰に教わったのでしょうか?
おひざをほんの少しだけかがめては、身体を揺らしながら、コケないようにってしてる仕草が何ともいえませんね…?!

いま、お気に入りの「お仕事」は、手に持ったシールを1枚1枚丁寧にはがしては貼り、そしてまた、貼ってははがしての大作に挑んでいます。

子どもはいろいろな仕草から、動作の基本を体感していくようです。
好きなところに、ペタペタシールをいっぱい貼ってみては、にっこり、その度に、おひざを揺らしながら、身体でリズムをとっています。

早く、早くって言ってるのでしょうか??
それとも、上手っていってるのでしょうか??

どっこいしょ…!
今度はぺったんって座り込んでの大格闘です。
そう、そう、座ったほうが、「お仕事」が上手にできますね…。

不安定な立ち姿勢と、まだまだぺったん座りの状態ですが、それでも、立っているときに比べると、身体のぐらぐらから開放されただけで、手元までしっかり確かめてシールを貼ることができます。
そ~~っと、手元のシールを慎重にはがしたあと、しっかり貼る場所を確かめてシールを貼ってます。

ずっしりとした『ならのこ』が、身体ごと全部でもたれかかってくる、まだまだ座位の不安定な子どもに寄り添っています。

大発見…!!

「座位」と「安定感」が確保できると、「集中する時間」までが変わってきています。

どうです…??
なかなかに真剣なまなざしでしょ、手元を確認する目つきまでもが変わってきましたね。

何度も、何度も繰り返し…、続きます。

足をたたんで床の上で正座ができたり、座位を保ってイスに座ることができたりと 自分の身体を支えることが上手にできていくようになれば、 きっと、時間のかかる作業(お仕事)にも、もっとたくさん静かに向かえるようになっていくでしょう。

そんなステキな静寂がやってくれば…、大作完成までのひととき、おかあさんも、ホッとひとやすみができますね。

もうすぐですから、待っててくださいね。
お・た・の・し・み・に…♪

■「子どもの発想力」は、環境に適応する力 ■

子どもの発想には、ときどきハッとさせられます。
イスがお仕事台になってみたり、遊び場になったり…と。
その思いがけない発想が生まれるのは、きっと、子どもたち自身が、生活環境をしっかりと自分の手の中に入れたときのような気がします。
「自分の手の中に入れる」って??
そう、それはイメージが開花して、工夫が生まれる瞬間です。

そこに寄り添ってくれるしっかりとした重量感のある素材があればこそ、 安心の空間が生まれ、子どもたちの発想も、
もっと豊かに開花していくのでしょう。

「環境」は、子どもの発想力を育みます。

西尾家具 ならのこプロジェクト こどもたちに良質を