ものづくりのこころ

ものづくりのこころ1

1951年 調理台第1号 開発

『教室の中央に置く』共同調理台。
問題を解決するための画期的なアイデアが、後のスタンダードになる。

家庭科室の「調理台」と言えば、教室の中央に置かれ、生徒たちは調理台を囲んで作業する、という形が現在の主流ですが、創業当時はそうではありませんでした。

西尾家具工芸社が創業した当時、教育基本法をはじめ図書館法、理科教育振興法など、教育関係の法律が次々に公布されました。次世代を担うこどもたちのために『最高の教育環境とは何か?』を日本全国で研究していた時代でした。中でも家庭科教室は、『清潔、かつ機能的、効率的にする』という日本の台所の基本的な考え方を学校教育を通して学ぶ場とされ、言わば家庭の台所の見本でした。


創業当時のカタログから。
当時、給水カランは壁についているタイプが 
主流でした。

そのため、家庭の台所のように壁に向かって作業するタイプの『改善台所』が調理室に導入されましたが、設置できる台数が少なく実習出来る人数が限られること、大人数が横一列に並んで作業するので事故が起こりやすいといった問題があり、授業には不向きな配置でした。

そこで、西尾家具工芸社では、教室中央に調理台を配置する共同調理台を研究し開発しました。


1959年のカタログから。中央に置く調理台は日本初でした。

流しとガス台を使わない時は蓋をする事で、
作業範囲を広く取れるようになりました。

また、小学校の家庭科室は、1つの教室を調理実習や被服の授業など、多目的に使用しなければなりません。そこで調理台の『流し』と『ガス台』に天板を被せ、調理をしない時は被服の実習台として使用できるようにしましたが、天板に付いている給水栓が作業の邪魔になりました。

そこで当社は、流しの内部に収納することの出来る折りたたみ式給水栓を開発し、この問題を解決しました。

今でこそ主流となった『中央に置く調理台』『折りたたみ式給水栓』は、
実習する生徒達の安全を守りつつ、よりよく学べるために工夫を凝らした成果でした。

ものづくりのこころ2

1964年 組立式実験台の誕生

困ったことをチャンスに変える方法。

理科実験台ではじめての『組立式』を開発したニシオ。
それにより、お客様に喜ばれ、販路も飛躍的に拡大しました。
そのアイデアはどこから生まれ、どうして実現できたのか。
中心になってすすめた東京支店長 取締役の福家さんに聞いてみました。

『私は営業でしたが、仕事を仕上げるために修理も手伝いました。
そうして家具のすべてを勉強しながら、ずっと考えていたことがありました…。』

取締役 東京支店長:福家 清純

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当時の生徒化学実験台 C-4型

当時、私どもの販売している実験台は、天板に逆さ台形の脚をつけていたのですが、困ったことに、その形が原因でトラックにうまく積めなかったのです。
普通、調理台や実験台の脚はほぼ四角形ですから、荷台に机を綺麗に積み重ね、ロープでしっかりと固定できるものですが、私どもの実験台はそれができませんでした。机を積み重ねても脚の底辺が小さな台形ですから、運搬中の振動でちょっとでもぶれると簡単に荷崩れしてしまいました。それでは!と思い天井をひっくり返して載せても、上に脚が来ることで、今度はロープが角に上手くかけられませんでした。また、当時の道路は舗装していない悪路が多く、取引先に運び終わるころには、大概どこか壊れてしまっていたのです。


岡山県立岡山工業高等学校 施工全景

あの頃の学校の設備は、PTAの方々が管理している「施設充実費」というものでまかなわれていました。ですから、家具を引き渡すときには学校の校長先生や教頭先生だけではなく、PTAの会長や役員の方も一緒に見ていただくのです。
そして、納品後はその場で支払いをしていただきました。そのように、その場でお支払いいただくためには、きちんとした製品をお客様にお渡ししないと駄目だったのです。ですが、先程言いましたように、きちんとお渡ししようにも、搬送の途中で家具が壊れてしまい大変困っていました。


組立式生徒用実験台の分解図

私は現場の担当者でしたから、なんとかこれらのトラブルが起きないようにできないものか、と考えておりました。
当時の家具職人と私達は、直接家具の受け渡しをしていました。例えば、職人が実験台を10台作り私達がそれらを持っていけば、職人たちはすぐ次の仕事に取り掛かります。しかし、実験台が壊れたから直して下さいと持ち込んだとしても、職人たちは次の仕事の工程が狂ってしまい困っていました。
結局、職人には無理言って残業してもらう事になりました。それでも時間に余裕がなく、職人にも申し訳ないことから、私達は自分の仕事が終わると職人のところに行き修理を手伝っていました。
修理を手伝ううちに勉強ができ、家具に対しての知識がよりわかるようになりました。そのころには修理をしながら「実験台を現場で組めるようにならないかなぁ」と考えていたのです。


初の組立式生徒用実験台 SC-4

そんなあるとき、四国のある高等学校の校長先生が突然来られて、「予算がこれくらいしかないんだけど、お願いできないだろうか?」と言われました。予算が少なかったことで、トラックの運賃(実験台を運ぶため)もあまり使えなく困ってしまいました。
しかし、自分が考えているような組み立て式の実験台なら、荷台がかさばらずトラックの台数が少なくて済むわけです。そこで、先代社長にこのようなことをしてみたい。と言ってみたところ「やってみろ」と返事をいただいたのです。そして、実際にやってみると非常にうまくいきました。
また、これまでは受注すると、そのときに作っては納品していたことで、仕事の集中する3月末などは職人の作業が追いつかなかったのです。お客様はたくさんいらっしゃるのに、納期が間に合わなく大変困っていました。そこで、組立式にする事により、かさばることなく倉庫に実験台の在庫をかかえられるようになったのです。組立式になってからは、在庫を置くことで早期の納期対応、また破損することなく搬送できるようになりました。
パンフレットを作って宣伝したことで、全国的に広まり仕事がどんどん入ってくるようにもなりました。


現在の組立式生徒用実験台 NSC-4W

「困ったとき、いかにしてそれを克服するか・・・」
でも、今やろうと思ってもできないのです。なにかのチャンスがあったときに力を出せるか出せないか、ということなのです。私は時々言うのですが、自分が思うことを温めておいて、それを使うチャンスというものをつかんで成功すれば、その人は非常に幸せ、というか楽しいじゃないですか。温めっぱなしではつまらないですけどね。と・・・
そういうチャンスを掴めたことが、私には良かったことですし、自分の仕事の面白さというものが掴めたのではないかと思います。それが先代社長の言っていた、「面白くして、お客様に納得していただいて」ということなのでしょう。

困ったことが起きた時、それを苦労と思わないで工夫する。
そうすると乗り越えた時…楽しいじゃないですか。

ものづくりのこころ3

2000年ならのこチェア開発

“ざぶとん”の自由さを。
こどもに愛される椅子を目指しました。

最初の頃はNARANOCOと言われても漠然としたイメージで、
どういう意味なのかまでは正直わかりませんでした…。

常務取締役 東京支店長:福家 清純

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合板ではなく、「無垢材を使う」その意味から考えました。


NARANOCO”ならのこ”
座面部分を広くとっているため、
実は大人でも座りやすい。

NARANOCOは無垢材(天然の木を製材したもの)を使った「お客様がご自身で組み立てる幼児用椅子」なのですが、現在私達が扱っている他の商品を見ますと、樹脂の化粧合板やプリント合板などの「見せかけの木目の加工木材」を使った物が多いのです。今まではそれが普通だと思っていたのですが、NARANOCOについては、まず合板ではなく無垢材を使うという意味から考えなければいけなくて、考えていくうちにNARANOCOのイメージが徐々に掴めていった感じでした。

最初にコンセプトを聞いてどうでしたか?

NARANOCOの開発担当になってしばらくしてから、東京でヨーロッパの椅子の歴史という展示会がありまして、「参考にしてこい」という事で行かせてもらいました。展示会ではヨーロッパの古い椅子の中にこども用の椅子も展示されていましたのですが、それを見て、私の正直な感想としては「嫌だ」と思ったのです。なにが嫌なのかというと、椅子からまるで「こどもはここにいなさい」というような縛り付けるイメージがもの凄く伝わってきたのです。


NARANOCO<ならのこ>キット。
こども用の軍手、はけもついている。

そこで日本のこども達を思い浮かべると、まず座布団の上で座っているイメージでした。それで「座布団っていいよなあ」と思い、日本の座布団という道具の自由さや気楽さといった要素を、このNARANOCOの椅子には込めているのです。例えば一般的なこども用の椅子に比べて、椅子の座る部分を若干広くしているのです。こども用のいろいろな椅子を勉強しましたが、どれも座る所の面積が小さかった。このように大きい面積に座っても小さい面積に座ってもお尻が当たる面積は一緒ですが、実際には違った感覚になると私は思うのです。

NARANOCOの特徴は?


こどもだけでは難しい作業を大人がサポート。


無垢の木だからこそ、生まれるコミュニケーションが面白い。

正直言って、綺麗な商品だとは思っていないのです。使いやすい商品だとも思っていないし、機能的であるというものではないと自分では思っています。そのあたりは、わざとずらしたというところもあります。例えば、普通の椅子は綺麗さを求めて、機能性も求めて、価格というものも安く押さえられるように考えて作ったものです。それはそれで椅子として合理的で正解だと思うのですが、NARANOCOもちゃんと合理的というものを含んでいるのですけど、まったく別の世界の椅子だと思います。

NARANOCOはお客様が自分で組立てますが、実はこのような無垢の木製品は、安定して組み立てる事がすごく難しい。例えば板に空いている穴(ダボ穴)に木柱(ダボ)を打ち込む時でも、打つ強さというのは穴によって全然違うのです。どうしても木の目や位置によって固くて差し込めないところや逆に緩過ぎるところが出てきてしまうのです。場合によっては固過ぎてこどもどころか大人でもまず打ち込めないときもあって、上手に完成できないというお客様から連絡があったときは、私がお客様のところに行って、工場に持ち帰って直したという経験もあります。

例えば、プラモデルだとプラスチックで品質が安定していますから、説明書通りにつくればどんなに複雑でもなんとか作り上げることができるわけです。でも無垢の木製品だと本当の木だからこそ、説明書通りに作れない。ですが私は、こども達だけで組み立てられなくても良いと思います。無茶苦茶に組み立てられてもいいし、壊れてもいいと思っている。それを見て誰かが助けてあげるとか、修理してあげるとか、そういうことができる商品にしたいという思いもありました。

澤田さんにとってのNARANOCOとは?




NARANOCOプロジェクトに参加した時、すでにコンセプトがありたくさんのキーワードもあったのですが、担当者として自分で木材という物に対して勉強したり、椅子という物に対して勉強した結果、私の中では「愛着」をキーワードにしてNARANOCOを設計することにしました。

愛着といっても説明がすごく難しいのですが、例えば、私はこどもが物を抱きかかえる仕草が好きです。NARANOCOがそういう抱きかかえられる存在になれないか、そして、こどもが成長するに従って、NARANOCOがぼろぼろになったり、傷だらけになったり、ついにはもうなんの台になっているのかわからない、という状況になったときに、買った当時を振り返ってくれる人が少しでもいてくれたら作った人間として幸せだなぁと、思いとしてはそんな感じですね。

私は、お客様がNARANOCOに特別な感情を移入してもらいたいとは特に望んでいません。はじめに愛着という言葉を使ったのですが、だからといってこれがこどもにとって、一番の道具だと押しつける気もありません。自分で組み立てた体験とか、無垢の木を触った体験とか、ちょっとしたことを経験してもらえるだけで充分かなあという気がします。NARANOCOは幼児向けに作った椅子なので、使用期限があるわけです。でも幼児期が過ぎた後も、無垢の木製品で丈夫ですから、じゃあ植木鉢の台にしようとか、踏み台にしようとか、いろいろな使い方が出来るわけです。でも、単に押し入れの中にしまって置く人もいるでしょうし、壊れたらたき火にくべる人もいるでしょうし、邪魔と思われてもそれはそれで面白いかなあと思います。私にとって、このNARANOCOに関しては、それが理想です。

『組み立てた』『無垢の木を触った』、そんな経験を経て、日常に溶けこんでくれるのが理想ですね。